読み終えた本「物語アメリカの歴史」2014年08月12日

「物語アメリカの歴史」
読み終えた本「物語アメリカの歴史」
猿谷要著 中公新書 1991年刊

猿谷氏は以前テレビなどで良く目にしていたが,最近見ないなぁと思ったら2011年に前立腺癌で亡くなっていた。
これ一冊読んだだけで米国の歴史を知った様な気になってもいけないが,非常に平易に書かれていて,分かり易い。

興味深い部分のメモ
p60 建国の祖父の一人,ベンジャミン・フランクリンは多才な人であるが,特に18歳から欧州に渡り,10回近く渡欧している。外交に手腕を発揮したことはこの経験があるかららしい。著者は自伝でもっとも好きなのが「福翁自伝」と「フランクリン自伝」だそうだが,フランクリンはこの中で13の徳目というものを掲げているが,一方の小品では「情婦の選択に関する若者への助言」などがあり,若い娘より年増女を,と勧めている。そんな面もあるのは時代のためだろうか。

p68 建国当初の米国民は400万人弱だったが,その19%の76万人は黒人だった。南部の州では40%を越えたところがある。

p75 ジェファソンはヴァージニアの大農場主だったので,大勢の奴隷を使っていた。妻の死後,彼の面倒をみて,4人の子供をもうけたのは若い混血の女性だった。
そのためか,黒人奴隷を虐げていれば,いずれ状況が変わったとき,神は我々(白人)の味方をしないだろう,と著書で述べている。

メキシコとの戦争,インディアン討伐,西部開拓という,原住民からみれば侵略の歴史が綴られる。戦争や買い上げに依って得たカリフォルニに続くアラスカでの金鉱脈発見は,米国にとっては非常に幸運だった。映画「アラモ」やテレビの西部劇で見ていたことが,歴史年表の上にプロットされる。

p92 リンカーンはメキシコ戦争を批判する爆弾発言で失脚したが,内戦の勃発(南北戦争)によって返り咲いた。もし,内戦がなければ,リンカーンは世に出ることはなかった。

p113 米国での鉄道敷設は民間に委ねられた。このため,鉄道王なるものが誕生する。グールドもその一人で,巨万の富を築いたが,財産を子供達に分け与えただけで,社会のために使うことをしなかった,と,この時代の米国から帰国した内村鑑三が,幻滅した様子を講義の中で述べている。

p118 黒人へのリンチ,樹に吊るされた「奇妙な果実」。黒人に対するリンチは予告されて行なわれ,女・子供まで見て楽しんだ。吊るされた死体から,心臓や肝臓の薄切りを土産に持ち帰ったという。

p137 20世紀初頭のアメリカ,この時代を描いたアプトン・シンクレア著「ジャングル」に書かれていることは,シカゴの缶詰工場やソーセージ工場で働いたときの経験をもとにしている。
「ヨーロッパで拒否されたソーセージは,はるばる本国に帰ってくるが,これはカビ臭く,白けている。これを硼砂とグリセリンに漬け,漏斗機に投げ込み,国内消費用として再生する。工員達が歩き回ったり,つばきをしたりして無数の結核菌がばら撒かれている塵埃とおが屑にまみれた床上に落ちる肉もある。倉庫に高く積まれた肉があり,その上には天井から雨もりの雫が落ちてくるし,何千という鼠が肉の上をかけ廻っている。倉庫の中は暗くて良く見えないが,肉の上を手でなぜれば,乾いた鼠の糞がごろごろしているのがわかる。鼠は厄介なもので,缶詰業者は毒入りのパンを倉庫内に置き,鼠を殺すが,こうなると,鼠とパンと肉が一緒になって漏斗機に入る。これはお伽話でも冗談でもない。肉はシャベルで荷車に積み込まれるが,積み荷をする男は,鼠が目に入っても,これを取り除く労をとろうとはしない。毒で殺された鼠一匹などは物の数にも入らないほど,いろいろなものがソーセージの中に入ってくるのだ。」
先般の中国での肉処理工場の様子を,米国人は笑うことができないだろう。
時の大統領セオドア・ローズヴェルトは読書家で,この本を読み,ソーセージ工場の場面にさしかかったが,折しも食卓にソーセージが載っていた。彼は声をあげてソーセージをつかみ,窓の外へ投げ捨てたという。大統領は当時27歳のこの本の著者を呼び,調査を重ね,食肉業界の抵抗を退けて,その年のうちに純正食品・薬物法と牛肉検査法を成立させた。

p142 ヴェルサイユ講和会議に出席したウィルソン(大統領)とクレマンソー仏首相との会話が当時の新聞に載った。進歩派のはずの大統領は,クレマンソーの現実的な質問の前に,完全に保守派の大統領と化していく。A.M.シュレジンジャー曰く,「ウッドロー・ウィルソンは黒人たちを人間関係の枠の外においた最後の進歩的大統領であり,ハーバート・フーバーは黒人下院議員の夫人をホワイト・ハウスのお茶会に招いて紛争をよんだ最後の保守的大統領だった。」

p164 カリフォルニア州では1913年に排日土地法が,1942年には排日移民法が成立。反日の動きは頂点にたっした。日清・日露戦争,第一次大戦での勝者となった日本は米国に危険な国と警戒された。しかし,日本の大衆は米国を憎んではいなかったようで,英語教育は縮小されたが続いていたし,ジャズや野球,ハリウッド映画を好んで観ていた。1936年のチャップリン来日では熱狂的に彼を迎えた。そういう大衆感覚が,戦後の新しい関係を作る下地となった。(確かに)

p226 マイノリティー集団の台頭。インディアンの呼び名は,インディアン自身が決め始めた。
アメリカ・インディアン→インディアン・アメリカン(インディアン系アメリカ人)
ネイティブ・アメリカン(先住アメリカ人)
ファースト・アメリカン(最初のアメリカ人)などを使うようになった。
映画「ソルジャー・ブルー」1970年公開。1864年に起きた大虐殺を描いている。

p251 ピューリッツァー賞受賞の本「よい戦争」スタッズ・ターケル著で,130人に第二次大戦についてインタヴューをしたもの。時を経れば,正義の戦争,良い戦争も色褪せてきて,様々な感慨がわくものだ。「あれは無益な戦争でした。・・」元警察署長。

p271 エピローグ「現代アメリカの飢餓」ビクター・サイデル著 1987年。この時代,まだ南部では餓死する人がいた。貧困は置き去りにされてきた。
サイデル博士の言葉「最近私たちは,世界史上最も強固な軍事力を目のあたりにしてきた。1981年に約千6百億ドル,1987年に約3千億ドルの軍事費を出資した。この額は,7年間で1兆6千億ドルに達し,・・・かりに一日百万ドルをキリスト誕生の日から使ったとしても,その総額は過去7年間の軍事費のわずか半額にも満たないのである。」

内容(「BOOK」データベースより)
アメリカは民主主義の理念を具体的に政治に実現させた最初の国である。独立宣言の中心「すべての人間は生まれながらにして平等である」は、今なお民主主義国家の道標として輝き続けているものの、人種間の問題や戦争など、建国から2百年余、その歴史は平坦ではなく、生々しい傷がまだ癒えることなくその跡をとどめている。この超大国の光と影を、戦後深いつながりをもって歩んできた日本との関係もまじえて描く。

内容(「MARC」データベースより)
日本を開国させ、今なお深いつながりを持つ超大国の光と影を描く本。民主主義の理念を具体的に政治に実現させた最初の国だが、建国から二百年余、その歴史は平坦ではなく、人種間の問題や戦争など、難問を多く抱えるアメリカの歴史の流れを追い、今後を占う。