潮候推算機2019年08月15日

潮候推算機
クロード・シャノンの伝記を読んでいて、謎が一つ解けました。

(長文注意)
------ 以前書いた話。ここから、
女子勤労挺身隊と聞いて、必ず思い出すことがあります。
何度も書いたので、またかとお思いの方もおられるでしょうが、2000.6.23-25、横須賀新港から新島へのショートクルーズで、商船三井客船(昔の大阪商船)のふじ丸(総トン数23,340トン)に乗った時の話です。
女子挺身隊は勤労動員であり、強制ではあったかもしれませんが、当時日本人だった韓国の婦人も、同じように動員されたのであって、決して奴隷労働ではなかったことは、誰もが知っている事実です。
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二日目の夜は船長主催のカクテルパーティーがありました。相席になったのは、年輩の三人のご婦人。
私の隣りの方は、リーダー格の、お年は召していらっしゃるけれど、とても上品でおきれいな方でした。
席に案内されてご挨拶したとき、このご婦人は家内と私を見て「失礼ですが新婚でいらっしゃいますか?」と聞かれました。これには驚きましたが、どこが新婚に見えたのでしょうね。結婚して27年目、子供達は皆成人したと話しました。戦後生まれですと言ったので、自分たちの年代のことはわからないだろうと思ったかもしれません。
「お仲間でいらっしゃいますか?」と他の二人を見て言うと、「そうなんです。女子挺身隊でしたの」とのこと。「そうですか、勤労動員されたんですね。」とお答えすると、私が女子挺身隊というのを知っているのが不思議という感じでした。
ご婦人は「水路部ということろで働きました。その時以来のおつきあいですの。だんだん空襲が激しくなり、イギリスのケルビン社の大事な機械を、成田さんの本殿に疎開させたのですよ。日本に二台しかない貴重なものでしたから」
私にはちょっと面白い話だったので興味を持ちました。 ご婦人にどんなお仕事でしたか?とうかがうと、「潮位を計る仕事でしたの。潮位をケルビン社の測定器が記録して、そのコサインカーブを合成して計算するのです。」そしていつ潮位がどうなるというのを予測する、その計算のためだとおっしゃいました。
私が「そうそう、潮位を計ったり、暦を発表するのも水路部の仕事ですね。潮の満ち干は、大潮、小潮とか月と太陽の動きによるので、天体観測が大切なんですよね。水路部は昔は海軍でしたが、今は海上保安庁ですね。」というと、「良くご存じですね!」と驚かれました。
私は、暦を編纂するのはずっと東京天文台だと思っていたのですが、水路部の仕事なのだと最近知ったのですとお話すると、婦人は「戦争が激しくなり、水路部はイギリスから緯度・経度の情報が入らなくなり、モナコからは潮位のデータが入らなくなりで、日本で独自に計算しなければならなかったのです。鈴木敬信先生がごいっしょでした。」とおっしゃるので、「鈴木敬信さんですか、ご本を持っていますよ、天文学通論を書かれましたね」と言うと、再びたいへん驚いて「鈴木先生をご存じなんですって」とお友達に向かって話しました。
「ご存じ」というほどではないのでが、私も天文が好きで、子供の頃、野尻抱影とか、鈴木先生の書かれたものを読んだことがあります、と申し上げました。
天文計算のために、天文学者が一緒に働いていたというわけです。
ご婦人はとにかく驚いたという表情で、「私たちのやったことをお話ししても、今まで誰もわかってくれる人はいなかったんですよ」とおっしゃり、嬉々としてお話をしてくださいました。
私もこの上品な老婦人の口からケルビン社だの、コサインカーブの合成だのという言葉が出るとは思ってもいませんでしたので、大変楽しい会話が続きました。
話しにでた、ケルビンは、良くご存じのジュール・トムソン効果のW.トムソンのことです。
辞典にはケルビンは自分の考案した計測器を販売し、巨万の富を得たとあります。日本に二台しかなかった貴重な機械とは、お話の内容から、記録式の潮位計と、潮流も計れたそうなので、ケルビン卿の発明した精密なダブルブリッジを備えた装置だったのかもしれません。
---- ここまで

ところが、全然違っていた。ケルヴィン卿の計算機は潮候推算機と言い、アナログコンピュータの一種で15個の歯車を持つ大きな機械式計算機だった。
http://museum.ipsj.or.jp/heritage/suisanki.html

https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/past_parmanent/rikou/Field_1/Detail_102.html
「本機の下部には外部動力により駆動するシャフトが横方向に通っており、大きさの異なる15個の歯車が付いています。このそれぞれの歯車から振幅と位相の異なる動きを上部にある15個の滑車に細い棒を通して伝えます。15個の滑車はそれぞれの速さ、大きさで上下に単振動を行います。この滑車に左端を固定した糸を通すと、糸の右端は各滑車の動きを足し合わせた動きをします。そこで一定の速度で回転するドラムに記録紙を巻き付け、糸の右端にペンを付ければ、合成した潮位曲線を得ることができます。」
*昔の測定器というか、計算機というか、まぁ、なんと美しいことでしょう!