読み終えた本「天才たちの日課」 ― 2016年06月24日

読み終えた本「天才たちの日課」メイソン・カリー著
原題「DAILY RITUALS:How Artists Work」
フィルムアート社 (2014/12/15)
近・現代の作家、芸術家,音楽家,思想家,医師,科学者などの日常、1日の過ごし方を調べたもので,原題にもある通り,天才だけを取り上げたものではない。
これらの人たちは,創作することを苦悩とする場合もあり,楽しんでいる人もいる。午前中から午後にかけて集中して著述に励む人と,深夜という人も多い。普段は普通の主婦で,家人が寝静まってから執筆する作家もいる。その日常は様々だ。
ただ,概ね決まった気分転換の習慣を持っており,散歩が最も多く,水泳とかランニングとかの運動が多い。
コーヒーや紅茶というカフェインの入った飲み物も多いが,今では違法な薬物でも手に入った時期の作家たちは,覚せい剤や睡眠薬をよく使ったようだ。それで身を持ち崩すようなことはなく,創作の際の補助手段と考えていたようだ。
サルトルは,コリドランというアンフェタミンとアスピリンの混合薬を,規定は一日1,2錠のところを毎日20錠のんだ。一錠ごとに1,2ページ書いたという。
多少知っている人たちで気になったことのメモ。
フェデリコ・フェリーニ
一度に3時間以上は眠れないと言っていた。
イングマール・ベルイマン
晩年、寝つきが悪くなり、4〜5時間しか眠れなくなったため、やがて映画製作から引退した。
カール・マルクス
金銭の管理能力が無く、「金についての本を書いた者で、こんなに金のない者は、今までいなかったと思う。」と本人が書いている。悪筆だったことは有名で,そのために就職もできず,一生,エンゲルス等他人の援助に頼っていた。この本にはないが,マルクスの字は誰も読めないので,すべて夫人が清書したという。
カール・ユング
簡素な暮らしが好きで、灯油ランプとマッチ以外は、16世紀の様な家で過ごした。週末には、電気も水道もない家で、キャンプの様に自ら料理を作った。
イマニュエル・カント
規則正しい生活を送ったことで知られるが、40歳を過ぎてから、この習慣を自分に課したそうだ。虚弱だったので健康上の理由もあり、「ある種の画一性」を,習慣から道徳的な規範に変えようとした。そのため,起床、昼食、散歩、就寝の時刻は時計代わりになるほどだった。パイプで吸う刻みタバコも一服と決めていたが、そのパイプは年々大きくなったそうだ。ここもカントらしく,結構笑える。
ジェイムズ・ジョイス
自分で「モラルに欠け,浪費癖と飲酒癖のある男」と言っている。テノールの声が自慢で,酒場ではアイルランド民謡を大声で歌ったという。借金まみれだった。
エリック・サティ
パリから10kmほど離れたアルクイユに移住してからは,毎日,パリまで歩いて通った,ということは聞いていたが,服装も毎日同じだったそうだ。それは引っ越した年にささやかな遺産を相続したそうで,それで栗色のビリード地のスーツと山高帽を一ダースずつ買ったからだそうだ。食通で大食漢だった。淡々とした(と私は感じる)サティの音楽は毎日同じ道を歩いたことによるのではないかとある。
ショスタコーヴィチ
作曲するときはピアノで弾いてみることはなく,いきなり楽譜を書き上げたそうだ。仕事をしているところを,人に見せたことはないという。一気に書き上げるところはモーツァルトに似ている。既に全部頭の中にあって,それを書き留めるだけなのだそうだ。
アガサ・クリスティー
書斎を持たず,家事の合間に食卓や寝室の洗面化粧台にタイプライターを置いて執筆した。執筆の様子を写真にしたいという記者は,絵になる書斎がないので困ったという。
トルーマン・カポーティ
数字の合計にこだわっていて、電話番号やホテルの部屋番号の合計が不吉な数字だと、予定を取り止めた。
フランク・ロイド・ライト
仕事をしているところを滅多に人に見せなかった。有名な落水荘の設計では,クライアントの到着2時間前に描いた。仕事も精力的だったが,三番目の妻の回想ではライトは85歳でも1日に2-3回セックスが出来るほどだった。
グレン・グールド
趣味は無く、生活と仕事が一緒というのを自分でも異常だと思っていた。電話魔で相手の事は考えなかった。ピアノの練習は1日わずか1時間程度だった。
シューベルト
作曲は午前中だけ集中して行っていたが作曲以外の仕事は全く役立たずで、いつも知人に金を借りるという生活だった。
リスト
酒とタバコの毎日で、睡眠時間は短かった。
バックミンスター・フラー
睡眠時間を減らせれば仕事をする時間が増えると考え,「高頻度睡眠」を提唱した。6時間ごとに30分眠るというものだ。「集中力の崩壊」という兆候が起きたらすぐに眠るようにする。この実験を一年間行ったが,妻からは不評で止めざるを得なかった。この実験につきあった学生によれば,フラーは30秒で眠りに落ち,まるでスイッチを切るようだったと述べた。
ジャクソン・ポロック
画家仲間だった妻に勧められてニューヨークからロングアイランド東部の漁村に移り住んだ。飲み仲間との夜毎の深酒を止めさせるためだった。生活が改まり,この時期にドリップペィンティングの技法を開発している。1日12時間も寝た。
アイザックアシモフ
アシモフはブルックリンで菓子屋を営んでいた父親をよく手伝っていたのだそうだ。興味深いのでそっくり引用する。(iPadのSiriで口述筆記させたけど,文脈を理解しているわけではないようで,誤変換が結構多い)
「私は長時間働くのが好きだったのだと思う。なぜなら、後の人生で、「子供の頃から青年期まで働きづめだったから、今はのんびり昼まで寝ていよう」と思った事は一度もないからだ。
それどころか、私はあの菓子屋時代の労働習慣をずっと守ってきた。朝は5時に起きて、できるだけ早く仕事を始め、できるだけ長く働く。これを毎日、休日も続ける。自分から進んで休暇をとることもないし、休暇中でも仕事をしようとする(入院している時でされそうだ)。
要するに、私は現在も、これからも、ずっと菓子屋にいるのだ。もちろん、客の応対をしているわけではないし、金を受け取って釣り銭を渡しているわけでもない。やってくる人みんなに愛想良くしなければならないわけでもない(実はそれは昔からずっと苦手だった)。自分が本当にやりたいことをやっているのだ----しかしそこに当時と同じスケジュールがある。それは体に刷り込まれたものだ。それについて人はこう思うかもしれない。あんただってチャンスがあれば、それに逆らっていただろう、と。
確かに言えるのは、あの菓子屋は、私に様々なメリットを与えてくれた、と言うことだ。それは単なる生きるための手段では決してなく、圧倒的な幸福につながるものだった。それが長時間労働ととても強く結びついていたために、長く働くことが私にとって快感になり、生涯の賢い週間となったのだ。」
---以上
原題「DAILY RITUALS:How Artists Work」
フィルムアート社 (2014/12/15)
近・現代の作家、芸術家,音楽家,思想家,医師,科学者などの日常、1日の過ごし方を調べたもので,原題にもある通り,天才だけを取り上げたものではない。
これらの人たちは,創作することを苦悩とする場合もあり,楽しんでいる人もいる。午前中から午後にかけて集中して著述に励む人と,深夜という人も多い。普段は普通の主婦で,家人が寝静まってから執筆する作家もいる。その日常は様々だ。
ただ,概ね決まった気分転換の習慣を持っており,散歩が最も多く,水泳とかランニングとかの運動が多い。
コーヒーや紅茶というカフェインの入った飲み物も多いが,今では違法な薬物でも手に入った時期の作家たちは,覚せい剤や睡眠薬をよく使ったようだ。それで身を持ち崩すようなことはなく,創作の際の補助手段と考えていたようだ。
サルトルは,コリドランというアンフェタミンとアスピリンの混合薬を,規定は一日1,2錠のところを毎日20錠のんだ。一錠ごとに1,2ページ書いたという。
多少知っている人たちで気になったことのメモ。
フェデリコ・フェリーニ
一度に3時間以上は眠れないと言っていた。
イングマール・ベルイマン
晩年、寝つきが悪くなり、4〜5時間しか眠れなくなったため、やがて映画製作から引退した。
カール・マルクス
金銭の管理能力が無く、「金についての本を書いた者で、こんなに金のない者は、今までいなかったと思う。」と本人が書いている。悪筆だったことは有名で,そのために就職もできず,一生,エンゲルス等他人の援助に頼っていた。この本にはないが,マルクスの字は誰も読めないので,すべて夫人が清書したという。
カール・ユング
簡素な暮らしが好きで、灯油ランプとマッチ以外は、16世紀の様な家で過ごした。週末には、電気も水道もない家で、キャンプの様に自ら料理を作った。
イマニュエル・カント
規則正しい生活を送ったことで知られるが、40歳を過ぎてから、この習慣を自分に課したそうだ。虚弱だったので健康上の理由もあり、「ある種の画一性」を,習慣から道徳的な規範に変えようとした。そのため,起床、昼食、散歩、就寝の時刻は時計代わりになるほどだった。パイプで吸う刻みタバコも一服と決めていたが、そのパイプは年々大きくなったそうだ。ここもカントらしく,結構笑える。
ジェイムズ・ジョイス
自分で「モラルに欠け,浪費癖と飲酒癖のある男」と言っている。テノールの声が自慢で,酒場ではアイルランド民謡を大声で歌ったという。借金まみれだった。
エリック・サティ
パリから10kmほど離れたアルクイユに移住してからは,毎日,パリまで歩いて通った,ということは聞いていたが,服装も毎日同じだったそうだ。それは引っ越した年にささやかな遺産を相続したそうで,それで栗色のビリード地のスーツと山高帽を一ダースずつ買ったからだそうだ。食通で大食漢だった。淡々とした(と私は感じる)サティの音楽は毎日同じ道を歩いたことによるのではないかとある。
ショスタコーヴィチ
作曲するときはピアノで弾いてみることはなく,いきなり楽譜を書き上げたそうだ。仕事をしているところを,人に見せたことはないという。一気に書き上げるところはモーツァルトに似ている。既に全部頭の中にあって,それを書き留めるだけなのだそうだ。
アガサ・クリスティー
書斎を持たず,家事の合間に食卓や寝室の洗面化粧台にタイプライターを置いて執筆した。執筆の様子を写真にしたいという記者は,絵になる書斎がないので困ったという。
トルーマン・カポーティ
数字の合計にこだわっていて、電話番号やホテルの部屋番号の合計が不吉な数字だと、予定を取り止めた。
フランク・ロイド・ライト
仕事をしているところを滅多に人に見せなかった。有名な落水荘の設計では,クライアントの到着2時間前に描いた。仕事も精力的だったが,三番目の妻の回想ではライトは85歳でも1日に2-3回セックスが出来るほどだった。
グレン・グールド
趣味は無く、生活と仕事が一緒というのを自分でも異常だと思っていた。電話魔で相手の事は考えなかった。ピアノの練習は1日わずか1時間程度だった。
シューベルト
作曲は午前中だけ集中して行っていたが作曲以外の仕事は全く役立たずで、いつも知人に金を借りるという生活だった。
リスト
酒とタバコの毎日で、睡眠時間は短かった。
バックミンスター・フラー
睡眠時間を減らせれば仕事をする時間が増えると考え,「高頻度睡眠」を提唱した。6時間ごとに30分眠るというものだ。「集中力の崩壊」という兆候が起きたらすぐに眠るようにする。この実験を一年間行ったが,妻からは不評で止めざるを得なかった。この実験につきあった学生によれば,フラーは30秒で眠りに落ち,まるでスイッチを切るようだったと述べた。
ジャクソン・ポロック
画家仲間だった妻に勧められてニューヨークからロングアイランド東部の漁村に移り住んだ。飲み仲間との夜毎の深酒を止めさせるためだった。生活が改まり,この時期にドリップペィンティングの技法を開発している。1日12時間も寝た。
アイザックアシモフ
アシモフはブルックリンで菓子屋を営んでいた父親をよく手伝っていたのだそうだ。興味深いのでそっくり引用する。(iPadのSiriで口述筆記させたけど,文脈を理解しているわけではないようで,誤変換が結構多い)
「私は長時間働くのが好きだったのだと思う。なぜなら、後の人生で、「子供の頃から青年期まで働きづめだったから、今はのんびり昼まで寝ていよう」と思った事は一度もないからだ。
それどころか、私はあの菓子屋時代の労働習慣をずっと守ってきた。朝は5時に起きて、できるだけ早く仕事を始め、できるだけ長く働く。これを毎日、休日も続ける。自分から進んで休暇をとることもないし、休暇中でも仕事をしようとする(入院している時でされそうだ)。
要するに、私は現在も、これからも、ずっと菓子屋にいるのだ。もちろん、客の応対をしているわけではないし、金を受け取って釣り銭を渡しているわけでもない。やってくる人みんなに愛想良くしなければならないわけでもない(実はそれは昔からずっと苦手だった)。自分が本当にやりたいことをやっているのだ----しかしそこに当時と同じスケジュールがある。それは体に刷り込まれたものだ。それについて人はこう思うかもしれない。あんただってチャンスがあれば、それに逆らっていただろう、と。
確かに言えるのは、あの菓子屋は、私に様々なメリットを与えてくれた、と言うことだ。それは単なる生きるための手段では決してなく、圧倒的な幸福につながるものだった。それが長時間労働ととても強く結びついていたために、長く働くことが私にとって快感になり、生涯の賢い週間となったのだ。」
---以上
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