帽子の老女2005年09月05日

ある日のこと、山手線だったと思います。平日の混んだ時間、偶然に座ることができ、その席は、たこ八郎のときと同じ、ドア横の手すりのある場所でした。かなり混んできて、手すりに寄りかかる人がいました。普段ならば、それは当然のことで、あまり気にすることはないのですが、この日はそうではありませんでした。その寄りかかった人は、寄りかかってはいるのですが、尋常ではなく、身体をぐいぐいと座っている私に押しつけているのです。その異常さに気がついて、よく見ると「フジ子・ヘミング」が被っていたような帽子の老女でした。しばらくは変な人だなぁ、と思いつつ我慢をしていたのですが、彼女はいきなりその場にしゃがみこんでしまいました。

そうなると、放ってはおけない。立ち上がって、「大丈夫ですか?どうぞ」と席を譲りました。混んでいたので、無理にその場を離れず、だいたいいつも席を譲った後はその場をわざとらしく離れるのはいやなので、その場にいることが多いのですが、この時もそうしました。
老女は無言で着席し、別段具合が悪いようでもありませんでした。杖を持っていたように記憶しています。

しばらくして彼女の目的地に到着しました。彼女は席を立つなり、本を読んでいた私の腕を掴んで、ほとんど無理矢理、席に座らせ、降りていきました。
結局、彼女は一言も発しませんでした。それが、かえって奇妙でした。

振り返って、彼女の行動を分析すると、杖が必要な彼女は、席に座りたい自分に早く気がついて欲しかったのです。鈍い私にいやがらせをしたのかもしれません。それでも気がつかないので、しゃがみ込んで抗議をしたのでしょう。それで放っておかれれば、彼女は変人扱いされたでしょうが、案外あっけなく席を譲られたことで、その腹立ちは収まり、譲った私にまた席を返してくれた、そんなことだったのかなぁ、と今でも時々、寂しげな眼をしていたその老女を思い出します。

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