読み終えた本「閔妃暗殺-朝鮮王朝末期の国母」2014年07月25日

閔妃暗殺
読み終えた本「閔妃暗殺-朝鮮王朝末期の国母」
角田房子著 新潮社 1988年刊

ご興味のある方は,乙未事変(いつびじへん)を参照されるとよい。

びん‐ぴ【閔妃】
(Min-bi) 李氏朝鮮26代の国王高宗の妃。閔致禄の娘。大院君を斥け、閔氏一族による政権を立て、守旧的な政治を行なった。日清戦争の後、ロシアと結び日本排斥を企てたため、日本公使三浦梧楼の陰謀により1895年10月8日、日本守備隊および日本人壮士に惨殺された。ミン‐ピ。(1851〜1895)
(広辞苑)
※実際には日本に協力した朝鮮人も関わっており,Wikipediaでは,
「乙未事変(いつびじへん)は、李氏朝鮮の第26代国王・高宗の王妃であった閔妃が1895年10月8日、三浦梧楼らの計画に基づいて王宮に乱入した日本軍守備隊、領事館警察官、日本人壮士(大陸浪人)、朝鮮親衛隊、朝鮮訓練隊、朝鮮警務使らに暗殺された事件。韓国では「明成皇后弑害事件」とも呼ばれる。」
となっている。

実際,事件後,朝鮮政府側では自白したとされる3名とその家族が処刑されている。しかし,彼らは実行犯ではなく,日本のスケープ・ゴートにされた。また,夜更けに実行されるはずが夜が空けてしまい,ロシア,アメリカの外交官らに現場を目撃され,また王宮周辺の朝鮮人等に,帯刀した多くの日本人が目撃されている。
当時の日本政府はおそらく寝耳に水だったようで,国際関係への配慮から,広島で日本人関係者等48名の裁判が行われたが,証拠不十分で全員無罪となっている。

三浦公使に近しかった堀口大學の父,堀口九萬一が関わったとされる。筆者が大學の娘に,九萬一の日記を見せてもらう約束を取り付けたが,探してもみつからなったという。大學が一家の恥と云っていたので,大學が焼却したのかもしれないとのこと。友人の与謝野鉄幹も深く関わっている。

多くの日本人の軍人・警察官・民間人が関わっており,襲撃時にはほとんどが「壮士」気取りで興奮状態にあったらしく,宮殿に突入すると,顔を知らない閔妃を探しまわり,宮女のうち,顔立ちの美しい者3名が日本刀で斬り殺された。首実検で,最後の殺された女官が閔妃と確認されたという。王妃は女官の服装に着替えて,難を逃れるつもりだったらしい。
さらにおぞましいことに,日本人の証言があり,閔妃等が庭で焼却される前に,日本人が遺体を辱めたらしい。筆者は女性であり,とても書けないと詳細は不明。

近代史に詳しい方はご存知だとは思うが,日清戦争後の話だとはいえ,私は閔妃のことを全く知らなかった。前回読んだ「日本の朝鮮統治を検証する」の前に読むべきだった。
皇后を日本人に殺された朝鮮国民のおもいはいかばかりだったか。
その後に何度も反乱が起きている。
日露戦争に勝利すると情勢が一変し,朝鮮を併合することになる。
李朝の支配から解放したとはいえ,日本の支配に変わっただけという見方もある。支配の仕方は違っていた,というのが「日本の朝鮮統治を検証する」に書かれているわけだ。
ただ,閔妃は贅沢三昧だったし,民に慕われていたかというとそうではない。開化路線をとった当時は日本に接近し,朝鮮の旧式軍隊に暗殺されそうになっている。この時は身代わりの官女を残して脱出している。

あとがきには,印象的なことが多く書かれている。
稲山元経団連会長の葬儀に参列した,浦項総合製鉄所会長,朴泰俊(パクテジュン)氏が語った稲山氏について「浦項製鉄所が今日の成功を収めるうえで,決定的な役割を果たしてくれた方であり,片時も忘れることのできない恩人である」と述べていることだ。浦項製鉄事業に対して,世銀や米輸出入銀行がしなかった支援を日本製鉄連盟の首脳に要請したのが稲山氏だった。朴氏は「この時の稲山さんのお姿は終生,私の脳裏からは去らないだろう。故人は,経済発展のために国を挙げて努力している韓国に真の発展の土台となる製鉄所を建設するのは至極妥当であるだけでなく,日本が数十年にわたった韓国支配を通じて韓国民に与えた損失を償う意味でも,同事業に協力するのが当然であると力説された。」と述べている。
私たちは,やはり,いくら昔のこととはいえ,日本が韓国に何をしたのかは知らなければいけないし,忘れてはいけないことだと思う。

筆者(角田房子氏)は何度も韓国を訪問しているが,一度も嫌な思いをしなかったと云う。しかし,アルバイトの大学生通訳に閔妃について書く予定だと話すと,興奮して本当に書くのかと云った。それは,ガイドをしていて日本人に閔妃暗殺の話をすると,ほとんどの人が知らないばかりか,中には「日本の公使が指揮をとって他国の王妃を殺すなんて,そんなバカなことがあるものか。つくり話をするな」と怒る人がいたという。閔妃のことを書いて,韓国人が嫌がったりするわけがないから,是非書いて欲しいと励まされたという。
ちょうどその月に,当時の独大統領ヴァイツゼッカーが演説し「われわれドイツ人全員が過去に対して責任を負わされている・・・後になって過去を変えたり,起こらなかったことにするわけにはいかない・・過去に目を閉ざす者は,現在にも盲目となる」筆者は忘れないと云う。

確かに日本はナチスとは違う。しかし,何も無かったことにはできない。戦後,日本無くして今の韓国はない。韓国は日本の歴史認識というが,韓国のそれはどうなのか。双方で厳密な,中立で公平な検証を行なっていくことができれば,両国の未来は明るいはずだ。

内容紹介(Amazonより)
時は19世紀末、権謀術数渦巻く李氏朝鮮王朝宮廷に、類いまれなる才智を以て君臨した美貌の王妃・閔妃がいた。この閔妃を、日本の公使が主謀者となり、日本の軍隊、警察らを王宮に乱入させて公然と殺害する事件が起こった。本書は、国際関係史上、例を見ない暴挙であり、日韓関係に今なお暗い影を落とすこの「根源的事件」の真相を掘り起こした問題作である。第一回新潮学芸賞受賞。