義務2006年02月11日

昨日(10日)は、静岡大学へ出張。行きの新幹線でのこと。熱海を過ぎた頃だっただろうか、車内放送で「お客様の中にお医者さまはいらっしゃいませんでしょうか。怪我をされたお客様がおられます。2号車後部へお願いいたします。」医者を呼ぶほどの怪我というからには、車内で転倒して骨折か脱臼か。医者が乗り合わせていればよいが、そうでなかったら・・・医師ではないが、開業していないとはいえ、柔道整復師の免許あるものとしては、整復や応急の処置は出来る。すぐに立って行こうかどうか、2分ほど逡巡した。「義務」という言葉が脳裏をよぎる。苦しんでいるかも知れないのを看過することはできない。すでに医師が行っているかもしれないが、様子だけでもと席を立った。6号車なので、2号車までは随分ある。5号車にトイレがあるので、6号車の乗客はトイレに立ったと思うだろうが、2号車に近い車両を横切っていく時には、帰りのことを考えてしまったのが情けない。下りの新幹線なので、帰りは乗客と顔が合う。

2号車の後部では車掌が二人、私を見ると「どうもすみません」。「私は医者ではなく柔道整復師、ほねつぎですので、応急処置はできますが」と告げ、患者(じゃないが)を看る。床に点々と血の跡。ドアに寄りかかった壮年男性。しっかりしている。「どうされましたか」と聞くとホームに落ちた、と云う。ホームに落ちたら、この車両には乗っていないだろう、などと思いながら、「傷を見せてください」。ズボンの裾をまくると、すでにバンドエイドて処置してあり、そばにマキロン。バンドエイドをめくろうとするので、結構ですと、止めた。「骨が見えたので」と患者。「それは骨ではなく皮下脂肪ですから安心してください」。いわゆる向う臑、頸骨下部をひどく擦り剥いたようだ。膝に近い上部と足底部を叩いて「骨が折れたような感じがしましたか?痛くありませんか?」の問いには「痛くありません」。骨折ではなく、擦過傷だけのようだ。他に痛いところもないし、他を打った様子もないので、「念のために外科のお医者さんに看ていただいて下さい、お大事に。」と告げて、離れた。車掌には何号車ですかと聞かれたので、容態が悪化した時のことも考えて「6号車です」と答えてその場を去った。乗客と向かい合って戻っていくのはどうにも気恥ずかしかったが。

しばらくして、車掌二人が交互にあらわれ、「先ほどはありがとうございました、お連れの方とお話しされていて、お元気なご様子です。新大阪で病院に行かれるそうです。」と報告してくれた。とんだハプニングだった。連れには「人助けでしたね」とちょっとからかいぎみに云われたが、「義務」を果たして良かったと思った。